【面白かった本】ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか
本書を読めば次の3つが分かります。
- ドイツ人と日本人の行動、価値観の違い
- 日本が抱える社会問題の根っこ
- 豊かな生活の秘訣
読み終えての一番の印象は
「ドイツ人と日本人はこんなにも考え方や行動が違うのか」
ということでした。
そして面白いのが、その「違い」を知ることで、日本が今抱える社会問題の「根っこ」が見えてくることです。
「豊かなはず」の日本で豊かだと胸を張れないのはここにあったんだと。
そんな発見がたくさんありました。
「ドイツを知るからこそ日本をより知れる」
そんな本でした。
目次
1. 著者について
熊谷 徹〈くまがい とおる〉 1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。
おもな著書
『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』(小社刊)
『イスラエルがすごい』(新潮社)
『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(高文研)
『偽りの帝国 緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(文藝春秋)
など多数。
2. 本書でわかること3選
ドイツ人と日本人の行動、価値観の違い
ドイツ人がどういう価値観を持っていて、日常でどんな行動をするのか、様々なエピソードと共に描かれています。例えば、
2018年の1月にハイデルベルク大学で講演した後、主催者や学生たちと居酒屋へ行った。ドイツではビールジョッキの下に厚紙のコースターを置く。10人くらいで大きなテーブルを囲んだので、店員は「いちいち客の横まで行ってコースターをテーブルの上に置くのは面倒くさい」と思ったのだろう。店員は、それぞれの客にコースターを投げてよこしたのだ。私は、忍者が手裏剣を投げる光景を思い出した。
日本ではありえない光景ですよね。エピソードとしては笑えますが、自分が実際にされたら笑っていられる自信はゼロです。
ドイツではお客様が神様ではありません。客と対等どころか店の方が立場が上という印象を受けました。その他にも、
- 労働時間の短さ
- 休日、長期休暇の過ごし方
- 店の閉店時間
- 店員の対応
- 環境意識
- リサイクルへの取り組み
など、著者の実体験のエピソードと共に、ドイツ人の日常をたくさん知ることができます。そのどれもがとても興味深く、日本との違いに驚かされるものばかりでした。
日本が抱える社会問題の根っこ
そして、こういった違いから気づかされるのが日本の社会問題です。「長時間労働、過労死、大量のゴミや食料廃棄」といったことです。
本書の一例を紹介します。
日本のデパートの地下食品売り場などで贈り物としてクッキーや煎餅を買うと、仰々しい紙箱を包装紙で包んでくれた上に、紙の手提げ袋に入れてくれる。「少しでも嵩を増やして、贈り物としての豪華さを強調したい」という気持ちは理解できる。しかし、贈り物をもらった人は紙箱や包装紙を捨ててしまうので、大量のゴミが出ることになる。
日本にはこのような丁寧かつ便利なサービスで溢れています。24時間営業、宅急便の時間指定、店員の深々としたお辞儀などもそうです。
しかし、ドイツ人から見ればこうしたサービスはありがたいものの、「無駄に見える」のです。なぜなら、こういったサービスこそが、長労働時間、大量のゴミや食料廃棄を生み出すからです。
まさに日本の現状ですよね。
日本に住んでいて日本だけ見ていると、それが当たり前であり、気づきにくいかもしれません。しかし、ドイツと比べてみると、問題の根本が見えやすくなるのです。
豊かな生活の秘訣
つまり、ドイツでは多少不便でも、それを当たり前として受け入れているのです。だから、サービスが悪くても苛立つことはしません。
その姿勢があるからこそ、無駄な労働を省くことができ、「労働時間の少なさ」や「休暇の多さ」を可能にしているのです。
こうして得た時間を消費で過ごすのではなく、公園や森で散歩をしたり、スポーツをしたり自然を相手に過ごすそうです。だから、お金もあまりかかりません。日本のような短い休暇を忙しく消費して過ごすのとは対照的です。
「こんな生き方で経済発展するの?大丈夫なの?」って思いますよね?
大丈夫です。
GDPの成長率においても、2017年のドイツは2・5%で、日本(1・7%)に大きく水をあけている。2014年以降は、ドイツ経済が拡大するテンポは日本経済よりも速くなっている。
経済成長も労働生産性においても、ドイツのほうが日本より上です。
何も返す言葉がありません。
3. 本書から学んだこと
「消費者の便利さを求める姿勢」が、日本を豊かな生活から遠ざけているということです。日本とドイツでは「社会の仕組み」が全然違うから真似できないという話ではありません。
「社会の仕組み」を作っているのは私達一人一人の行動です。消費者として便利さを求めるから、その需要に答えるようにして、そういう「仕組み」ができていく、そういう「社会」になっていくということです。
そして、それが結果として、日本人の労働時間を長くし、忙しくしています。つまり、自分で自分の首を締めているのが日本なのかなと思いました。
政治や制度や仕組みのせいにするのでなく、まず客としての自分が、サービスを求めすぎないこと、不便さを受け入れること。
それが豊かに生きるスタート地点です。